介護施設の備蓄品リストとは、入居者と職員が施設内で生活・ケアを続けるために必要な水・食料・介護用品・電源などを、品目・数量・保管場所まで整理した一覧のことです。結論から言えば、備蓄は最低3日分・推奨1週間分、飲料水は1人1日3Lが公的な目安です。
本記事は介護施設・障害福祉施設の管理者・防災担当者向けに、「何日分」の根拠、定員×日数×職員分で電卓が叩ける計算式、とろみ剤・おむつ・電源など介護特有の品目チェック表、期限切れを防ぐローリングストック運用、BCP・運営指導との連動までを、元消防局員×救急救命士×看護師の防災コンサルタントが解説します。当社は備蓄品を販売しない中立の立場で書いています。
結論:介護施設の備蓄は最低3日分・推奨1週間分
- 飲料水:1人1日3L×最低3日分(政府広報等の公的目安。トイレ等の生活用水は別途)
- 食料:最低3日分——外部支援・物流の再開までの目安が約3日とされるため
- 大規模災害の想定地域は1週間分が望ましい——南海トラフ地震の被害想定域(大阪・近畿の沿岸部を含む)では支援の遅れが見込まれます
備蓄は「義務」なのか
品目・数量を全国一律で定めた法令基準はありません。しかしBCP(業務継続計画)の完全義務化により、計画に備蓄の確保を記載し、実際に講じることが実質必須になっています。BCP未策定は基本報酬の減算(施設・居住系3%/その他1%)対象であり、備蓄は「善意の備え」ではなく運営基準対応の一部と捉えてください。詳細は介護施設のBCP義務化とは?をご覧ください。
備蓄量の計算式|定員×日数+職員分で算定する
備蓄計画で最も多い失敗は「なんとなく段ボール◯箱」です。次の式で、自施設の必要量を数値にしてください。
💡 基本計算式
必要量 =(入居者数 + 災害時に残留・参集する職員数)× 日数 × 1人1日あたりの消費量
職員分を忘れないことが最大のポイントです。発災時、職員は帰宅できず泊まり込みで対応します。
1人1日あたりの消費量の目安
| 品目 | 1人1日の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 飲料水 | 3L | 調理用を含む。生活用水は別途 |
| 食事 | 3食 | 嚥下状態別(常食・軟菜・ミキサー・とろみ)に内訳を出す |
| おむつ(対象者) | 5〜8枚+パッド | 普段の使用量から実測 |
| 簡易トイレ処理袋 | 5〜7回分 | 断水時は全員が使用 |
モデル計算:定員50名の入所施設(3日分)
| 品目 | 計算 | 必要量 |
|---|---|---|
| 飲料水 | (50名+残留職員10名)×3日×3L | 540L(2Lペットボトル270本=45箱) |
| 食事 | 60名×3日×3食 | 540食(うちミキサー・とろみ対応は対象者数で内訳) |
| おむつ | 対象30名×3日×6枚 | 540枚+パッド |
| 簡易トイレ | 60名×3日×6回 | 約1,080回分 |
数字にすると「思ったより多い」のが普通です。置き場所・予算の制約があるため、まず3日分を揃え、年度計画で1週間分へ拡充する段階整備が現実的です。
通所・訪問系はどう計算するか
通所系は「利用中に被災し帰宅できない利用者+職員」が1泊過ごせる量(最大利用者数×1日分+α)が基準です。訪問系は事業所の職員分に加え、車両への飲料水・簡易トイレの積載を検討してください。
自施設の数字で計算してみましたか?
夜間の職員数と入居者数を入れるだけで、災害時の避難体制のリスクを1分で判定できます(無料・入力データは送信されません)。備蓄の優先順位づけにも使えます。
所要約1分/入力内容が送信されることはありません
介護施設の備蓄品チェック表【介護特有品目まで全網羅】
一般的な防災リストに載らない介護特有の品目こそ、発災後に「無くて困る」ものです。4カテゴリで整理します。印刷してそのまま在庫照合に使えます。
① 食料・飲料水
- 飲料水(1人1日3L)/生活用水(風呂の汲み置き・雨水タンク等)
- 主食・副食の非常食(アルファ化米・レトルト・缶詰)
- とろみ調整食品・嚥下調整食(ミキサー粥・ゼリー食)…農水省の要配慮者向け食品ストックガイドでも備蓄が推奨されています
- 流動食・経管栄養剤(対象者×日数分+白湯)/アレルギー・治療食対応(糖尿病・腎臓食)
- カセットコンロ・ボンベ(湯せん・炊き出し用)、使い捨て食器・ラップ
② 衛生・排泄用品
- おむつ・尿取りパッド(サイズ別に対象者×日数)/清拭タオル・ドライシャンプー
- 簡易トイレ・処理袋・凝固剤(全員×日数×5〜7回)
- 口腔ケア用品(誤嚥性肺炎の予防に直結)/手指消毒・マスク・使い捨て手袋・エプロン
- 感染対策物品(次亜塩素酸ナトリウム・嘔吐処理セット)
③ 医療的ケア・電源
- 吸引器の予備バッテリー・手動式吸引器/在宅酸素の予備ボンベ(業者の緊急連絡先も明記)
- 常備薬・処方情報の写し(お薬手帳のコピー)/救急セット
- 非常用発電機または蓄電池(「何を何時間動かすか」から容量を逆算)/延長コード・電源タップ
- エアマット停止時の代替(体位変換クッション)/血圧計・体温計・パルスオキシメーター(電池式)
④ 生活・情報・設備
- 照明(LEDランタン・ヘッドライト+予備電池)/携帯ラジオ
- スマホ充電手段(モバイルバッテリー複数)/通信途絶時の連絡手段の代替(災害用伝言ダイヤルの手順掲示)
- 毛布・アルミブランケット/夏場の暑さ対策(冷却材・スポットクーラー)
- 搬送用具(担架・おんぶ紐)/ガラス飛散防止・ブルーシート・土のう(浸水想定施設)
ローリングストックで期限切れを防ぐ運用ルール
備蓄の失敗の大半は「買って満足→気づいたら期限切れ」です。ローリングストック=日常や訓練で計画的に消費し、使った分を買い足す運用で解決します。
- 管理表を作る…品目・数量・保管場所・期限・担当者を1枚に。年2回(防災訓練の月に合わせて)棚卸し
- 訓練・行事で消費する…期限が近い非常食は訓練の炊き出しや行事食に回す。「非常食を実際に配って食べる」こと自体が給食停止時の予行演習になります
- 保管場所を分散する…1か所集中は被災リスクも集中します。浸水想定のある施設は上階保管が原則。厨房・各フロア・倉庫に分散し、保管場所を管理表と館内図に明記
BCP・運営指導と備蓄リストの連動(減算を防ぐ)
チェック表をそのままBCPの様式へ
厚労省の自然災害BCPひな形には備蓄品リストの様式(品目・必要量・保管場所・担当者)が含まれています。本記事のチェック表で在庫を整理すれば、そのまま転記してBCPの該当様式が完成します。ひな形の構成はBCPひな形の使い方で解説しています。
運営指導で見られるポイント
- BCPに記載した備蓄品リストと実在庫が一致しているか(数量・期限・場所)
- 算定根拠があるか(「定員×日数」で説明できるか)
- 定期的な見直し(棚卸し)の記録があるか
訓練で「使えるか」を検証する
発電機の実負荷運転、カセットコンロでの湯せん、簡易トイレの組み立て——訓練で1回使ってみると、電池切れ・部品不足・手順の不明が必ず見つかります。これはBCP訓練(施設系は年2回以上)の実施内容としてそのまま記録でき、義務対応と実効性を同時に満たせます。設備投資に補助金を使う考え方はBCP・防災補助金まとめをご覧ください。
よくある質問
非常食の備蓄は介護施設の義務ですか?
品目・数量を一律に定めた法令基準はありませんが、BCPの完全義務化により計画への備蓄の記載と実施が実質必須です。BCP未策定は基本報酬の減算(施設・居住系3%/その他1%)対象のため、備蓄整備は経営面でも不可欠です。
3日分と1週間分のどちらを用意すべきですか?
最低ラインは3日分です。南海トラフ地震の被害想定地域など支援の遅れが見込まれる地域では1週間分が望ましいとされています。まず3日分を揃え、年度計画で段階的に1週間分へ拡充するのが現実的です。
職員の分の備蓄も必要ですか?
必要です。発災時は職員が帰宅できず泊まり込みで対応する前提で、災害時に残留・参集する職員数×日数分を入居者分に上乗せして算定してください。職員分の不足は業務継続に直結します。
費用はどのくらいかかりますか?補助金はありますか?
水・食料の基本セットは1人あたり数千円規模から整備できます。自治体によっては蓄電池・簡易トイレ等を対象とする支援事業が実施されることがあるため、所在自治体の高齢福祉・防災部局に確認してください。一度に揃えず年度計画での段階整備も有効です。
賞味期限切れを防ぐ方法はありますか?
ローリングストックが有効です。品目ごとに期限と担当者を記した管理表を作り、訓練の炊き出しや行事食で期限の近いものから消費すれば、廃棄を防ぎながら訓練の実効性も高められます。
まとめ
✓ この記事のまとめ
- 備蓄は最低3日分・推奨1週間分、水は1人1日3L
- 計算式は(入居者+残留職員)×日数×1人1日消費量。職員分を忘れない
- 介護特有品目(とろみ剤・嚥下食・おむつ・吸引器電源)こそ「無くて困る」もの
- ローリングストック+分散保管(浸水想定なら上階)で期限切れと全損を防ぐ
- チェック表はBCPの備蓄様式へ転記し、訓練で1回使って検証する(2026年7月時点の情報)
備蓄は「買うこと」ではなく「回すこと」がゴール
サニーアライズは備蓄品を販売しない中立の立場で、必要最小限の備蓄構成の算定、BCPへの落とし込み、訓練での検証まで支援します。チェック表の運用づくりからお気軽にご相談ください。
お電話 070-9445-5546(平日9:00〜17:00)/支援は大阪・近畿中心、ご相談はオンラインで全国対応
この記事の監修
奥野雅也(サニーアライズ代表)。元消防局員として災害・救急の現場を経験。救急救命士・看護師。介護・福祉施設の防災訓練・BCP策定支援と、避難力を数値化する「MTED診断」を提供。代表プロフィールを見る
参考資料(一次資料)
- 政府広報オンライン「災害に備えた家庭備蓄のポイント」(水1人1日3L・最低3日分・推奨1週間分)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン」・自然災害BCPひな形(備蓄品リスト様式)
- 農林水産省「要配慮者のための災害時に備えた食品ストックガイド」(嚥下調整食・とろみ調整食品の備蓄)
