感染症BCPの机上訓練は、会議室・60分・資料だけで実施できます。厚生労働省も机上訓練(シミュレーション)を訓練の中心的な方法として想定しており、施設系は自然災害と感染症でそれぞれ年2回以上の訓練が必要です。
本記事は介護事業所の管理者・感染対策担当者向けに、そのまま使える進行台本3例(初動・人員不足・ゾーニング)、60分の標準アジェンダ、記録の書き方を、元消防局員×救急救命士×看護師の防災コンサルタントが解説します。
目次
感染症BCPの机上訓練とは?感染対策マニュアルの訓練との違い
机上訓練とは、会議室で状況付与を読み上げ、参加者が「自分ならどう判断・行動するか」を検討する形式の訓練です。実際に体を動かす実動訓練と違い、少人数・短時間で実施できます。
| 感染対策の訓練 | 感染症BCPの訓練 | |
|---|---|---|
| 主眼 | 感染させない(手指衛生・防護具・消毒の手技) | 感染が広がった状況で事業を続ける |
| 主な検討事項 | PPEの着脱、消毒手順、ゾーニングの実務 | 職員が足りない中での業務縮小、応援要請、判断の順序 |
| 典型的な問い | 「どう防ぐか」 | 「誰が来られない中で、何を止めるか」 |
両者は重なりますが、BCP訓練で必ず扱うべきは「人が足りないときの判断」です。ここが抜けると、感染対策訓練の記録だけになってしまいます。
感染症BCPの訓練は年何回?一体実施で回数を減らす
| サービス類型 | 感染症BCPの研修 | 感染症BCPの訓練 |
|---|---|---|
| 施設系・居住系 | 年2回以上 | 年2回以上 |
| 通所系・訪問系など | 年1回以上 | 年1回以上 |
これは自然災害BCPとは別カウントです。つまり施設系は年間で「災害2回+感染症2回=訓練4回」が基準になります。回数の詳細は介護のBCP訓練は年何回?で解説しています。
💡 回数を増やさないコツ感染症BCPの研修・訓練は、感染症の予防・まん延防止のための研修・訓練と一体的に実施して差し支えないとされています。既存の感染対策委員会の研修に「人員不足時の業務縮小」の検討を30分足すだけで、BCP訓練としても記録できます。
机上訓練の進め方|60分の標準アジェンダ
| 時間 | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 0〜5分 | 目的の共有 | 「今日は判断の練習です。正解を当てる場ではありません」 |
| 5〜10分 | BCPの該当ページを開く | 計画書を実際に手元に置く(これが周知にもなる) |
| 10〜40分 | 状況付与+検討(3〜4回に分けて進める) | 1回の付与ごとに5分議論→発表 |
| 40〜50分 | できなかったこと・決まらなかったことの洗い出し | ここが訓練の成果物 |
| 50〜60分 | BCPのどこを直すかを決める(担当・期限) | 議事録に残す |
20分の短縮版
時間が取れない場合は、状況付与を1つに絞り「①付与→②5分議論→③課題を1つ書き出す」の20分版でも訓練として成立します。やらないより、短くてもやるほうが記録も残り現場も動きます。
準備物リスト
- 感染症BCPの現物(参加者分のコピーまたは1冊回覧)
- 本記事の進行台本(進行役が読み上げる)
- 施設の平面図(ゾーニング検討用)
- 職員名簿・シフト表(人員不足の検討用)
- ホワイトボードまたは大きめの紙
そのまま使える机上訓練シナリオ3例【進行台本】
シナリオ1:発生初動(入所系・60分)
| 付与 | 状況(進行役が読む) | 問いかけ |
|---|---|---|
| ① | 「金曜17時。2階の入居者Aさんが38.5℃の発熱。咳もあります」 | まず誰に報告し、誰が何を判断しますか?(受診の判断・記録・家族連絡) |
| ② | 「同じフロアの職員Bさんも37.8℃で早退しました」 | 職員の就業判断は誰がしますか? 検査はどうしますか? |
| ③ | 「土曜の朝、Aさんと同室の方も発熱。夜勤者から報告がありました」 | 休日・夜間の連絡系統は機能しますか? 誰が出勤しますか? |
| ④ | 「保健所に相談が必要な状況になりました」 | 連絡先と担当者は決まっていますか? 報告する情報は揃いますか? |
シナリオ2:職員の人員不足(全業態・60分)
| 付与 | 状況 | 問いかけ |
|---|---|---|
| ① | 「月曜朝、職員5名が同時に発熱で欠勤。出勤率60%です」 | 今日の業務のうち、何を止めますか?(入浴・レク・行事) |
| ② | 「翌日、さらに3名が欠勤。出勤率45%になりました」 | 最低限続ける業務は何ですか? 与薬・与食・排泄はどう回しますか? |
| ③ | 「看護師が全員欠勤しました」 | 医療的ケア(吸引・インスリン等)はどうしますか? 誰に応援を求めますか? |
| ④ | 「法人内の他事業所も同様の状況です」 | 外部(法人外・行政・派遣)への応援要請の手順はありますか? |
⚠ このシナリオで必ず出る課題「何を止めるか」が計画に書かれていないと、この訓練は必ず行き詰まります。逆に言えば、止める業務の優先順位を決めるきっかけとしてこのシナリオが最も効果的です。優先業務の決め方は介護BCPの作り方5ステップで解説しています。
シナリオ3:ゾーニング(入所系・40分)
| 付与 | 状況 | 問いかけ |
|---|---|---|
| ① | 「2階で3名、1階で1名の感染者が確認されました」(平面図を見ながら) | 感染者エリアと非感染者エリアの境界をどこに引きますか? |
| ② | 「職員の休憩室・更衣室は1か所しかありません」 | 職員の動線はどう分けますか? 休憩の時間差は付けられますか? |
| ③ | 「食事の配膳と下膳、洗濯物の動線が交差しています」 | 物の動線はどう分けますか? 誰が担当しますか? |
| ④ | 「防護具の在庫が3日分しかないと分かりました」 | 調達先はどこですか? 使用量の見込みは立てられますか? |
ゾーニングは平面図に線を引いてみるのが最も効果的です。図面上で「ここは通れない」「ここで着替える」を決めると、実際の運用イメージが一気に具体化します。
災害と感染症、両方の備えは足りていますか?
夜間の職員数と入居者数を入れるだけで、避難体制のリスクを1分で判定します(無料・入力データは送信されません)。
所要約1分/入力内容が送信されることはありません
訓練記録の残し方|運営指導で「実施した」と認めさせる書き方
記録に残す項目は次の6点です。感染対策の研修記録と分けて保管してください。
- 実施日時・場所・所要時間
- 参加者(職種・人数。欠席者へのフォロー方法も)
- 使用したシナリオ(状況付与の内容を1〜2行で)
- 検討した内容(BCPのどの手順を確認したか)
- 判明した課題(決まらなかったこと・不明だったこと)
- BCPへの反映事項(担当者・期限つき)
記入例(シナリオ2を実施した場合)
- 日時:2026年9月10日 14:00〜15:00/2階会議室(感染症BCP机上訓練)
- 参加者:介護職9名、看護職2名、事務1名(計12名/欠席2名に資料配布と個別説明)
- シナリオ:職員5名が同時欠勤(出勤率60%)→翌日45%→看護師全員欠勤
- 検討内容:業務の縮小順序、医療的ケアの代替、応援要請先
- 課題:①止める業務の順序が計画に未記載 ②法人外の応援要請先が未定 ③防護具の在庫日数を誰も把握していなかった
- 反映:①優先業務表を作成しBCP p.8に追加(担当:施設長/10月末)②近隣2施設と応援について協議(担当:事務長/11月末)③防護具の在庫表を作成(担当:看護主任/9月末)
自然災害BCPと統合できる?一体化の可否と線引き
計画書を1冊にまとめることは可能ですが、訓練は別カウントです。「災害と感染症を1回の訓練でまとめて実施し、2回分としてカウントする」ことはできません。
| できる | できない | |
|---|---|---|
| 計画書 | 1冊にまとめる(両方の内容が揃っていること) | 片方だけで「策定済み」とする |
| 訓練 | 感染症BCP訓練を感染対策訓練と一体実施/災害BCP訓練を防災訓練と一体実施 | 災害と感染症を1回で兼ねて2回分にする |
ただし、複合災害(感染症の流行中に地震が発生)を想定した訓練は非常に有効です。この場合は「災害BCP訓練」として記録し、感染症下での避難という現実的な課題を扱えます。
よくある質問
机上訓練だけでも訓練としてカウントされますか?
されます。厚労省も机上訓練(シミュレーション)を訓練の中心的な方法として想定し、業態別の解説資料・動画を公開しています。シナリオ・参加者・気づきを記録すれば訓練実績になります。
感染症BCPの訓練は感染対策訓練と一緒でよいですか?
一体的な実施が認められています。ただし記録には「人員不足時の業務縮小の判断」などBCP固有の要素を検討したことを明記してください。手技の確認だけでは感染対策訓練の記録にとどまります。
参加できなかった職員はどうすればいいですか?
資料の配布と個別説明を行い、記録に「欠席者へのフォロー方法」を書いてください。夜勤者・パート職員が抜けやすいため、複数回の開催または動画・資料での代替を組み合わせるのが現実的です。
シナリオは毎年同じでもいいですか?
回数の要件は満たせますが、訓練としての価値は下がります。本記事の3シナリオをローテーションするか、出勤率の設定を変える(60%→40%)だけでも新しい課題が出てきます。
まとめ
✓ この記事のまとめ
- 机上訓練は会議室・60分・資料だけで成立。20分の短縮版も可
- 感染症BCP訓練は施設系年2回以上。感染対策訓練と一体実施できる
- シナリオは①発生初動 ②人員不足 ③ゾーニングの3例をローテーション
- BCP訓練で必ず扱うのは「人が足りないときに何を止めるか」
- 記録には課題とBCPへの反映(担当・期限)を必ず書く(2026年7月時点の情報)
机上訓練の進行役を任せたい施設へ
看護師資格を持つスタッフが、感染症BCPの机上訓練の設計から進行・講評、記録の整備まで支援します。第三者が入ると課題が出やすくなります。
お電話 070-9445-5546(平日9:00〜17:00)/訓練支援は大阪・近畿中心、ご相談はオンラインで全国対応
この記事の監修
奥野雅也(サニーアライズ代表)。元消防局員として災害・救急の現場を経験。救急救命士・看護師。介護・福祉施設の防災訓練・BCP策定支援と、避難力を数値化する「MTED診断」を提供。代表プロフィールを見る
参考資料(一次資料)
- 厚生労働省「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援」(感染症編ひな形・机上訓練の解説資料・動画)
- 運営基準の解釈通知(感染症BCPの研修・訓練の回数、感染対策の研修・訓練との一体実施)
- 厚生労働省「令和6年度介護報酬改定に関するQ&A(Vol.1)」(問164)
