介護施設が持つべき災害関連の計画は3つあり、根拠法・目的・提出先がすべて違います。非常災害対策計画は運営基準、避難確保計画は水防法等(市町村長へ提出)、BCPは運営基準(業務の継続)——この整理ができていないと「うちは計画がある」と思っていても要件を満たしていないことがあります。
本記事は介護・障害福祉事業所の管理者向けに、3つの計画の違いを早見表で整理し、一元化できる部分とすべきでない部分、矛盾なく整備する手順を、元消防局員×救急救命士×看護師の防災コンサルタントが解説します。
非常災害対策計画・BCP・避難確保計画の違い【早見表】
| 非常災害対策計画 | 避難確保計画 | BCP(業務継続計画) | |
|---|---|---|---|
| 根拠 | 介護保険の運営基準(非常災害に関する具体的計画) | 水防法・土砂災害防止法・津波法 | 介護保険の運営基準(業務継続計画) |
| 対象 | すべての事業所 | 浸水想定区域等にあり市町村地域防災計画に定められた施設 | すべての事業所 |
| 目的 | 災害時に安全に避難する | 洪水時等に円滑・迅速に避難する | 業務を継続・早期復旧する |
| 提出先 | なし(運営指導で確認) | 市町村長へ報告 | なし(運営指導で確認) |
| 訓練 | 定期的に実施 | 原則年1回以上+結果を市町村長へ報告 | 施設系は各年2回以上 |
| 未対応のリスク | 運営指導での指導 | 指示・公表の対象になり得る | 未策定減算(3%/1%) |
💡 3つの関係を一言で非常災害対策計画は「逃げる」、避難確保計画は「水害から逃げる(+行政に報告する)」、BCPは「逃げた後どう事業を続けるか」。時間軸と目的が違うので、どれか1つでは代替できません。
非常災害対策計画とは|運営基準が求める「具体的計画」
介護保険の運営基準は、事業者に非常災害に関する具体的計画を立て、関係機関への通報・連携体制を整備し、定期的に避難・救出その他必要な訓練を行うことを求めています。
「消防計画+風水害・地震への対処計画」の二階建て
非常災害対策計画は、消防法上の消防計画(火災を想定)と、風水害・地震などへの対処を定めた部分の組み合わせで構成されるのが一般的です。火災だけを想定した消防計画しかない施設は、非常災害対策計画としては不十分な状態です。
書くべき内容
- 災害別(火災・地震・風水害・土砂災害)の想定と対応
- 自衛消防組織・防災体制と役割分担(夜間・休日を含む)
- 避難場所・避難経路・避難方法
- 関係機関(消防・市町村・家族・協力医療機関)への通報体制
- 地域住民・近隣施設との連携
- 訓練の計画
避難確保計画とは|水防法に基づき「提出義務」がある計画
3つの中で唯一、行政への提出(報告)義務があるのが避難確保計画です。
対象になる施設
洪水浸水想定区域・雨水出水浸水想定区域・高潮浸水想定区域・土砂災害警戒区域などの中にあり、かつ市町村地域防災計画にその名称・所在地が定められた要配慮者利用施設が対象です。自施設が対象かどうかは市町村の防災担当課で確認できます。
5つの義務
- 避難確保計画を作成する
- 作成・変更したら遅滞なく市町村長へ報告
- 計画に基づく訓練を実施(原則年1回以上)
- 訓練の結果を市町村長へ報告(実施後おおむね1か月以内が目安)
- 未作成の場合は指示・公表の対象になり得る
水害時の判断基準や垂直避難の可否は介護施設の水害避難|警戒レベル別の判断基準で詳しく解説しています。
⚠ 2026年5月に情報名称が変わりました防災気象情報の名称が整理され、従来の「洪水警報」「洪水注意報」は運用されなくなりました。避難確保計画のタイムラインに旧名称が残っている場合は、次回の見直しで差し替えてください。
業務継続計画(BCP)とは|避難した「その後」を決める計画
BCPは、災害や感染症の発生時にどの業務を続け、どの業務を止めるかを決める計画です。避難が終わった後に必要になる、人員・備蓄・代替手段・復旧手順を扱います。
3つの中で唯一報酬減算が設定されているのがBCPです(施設・居住系3%/その他1%)。詳細はBCP未策定減算とは?と介護施設のBCP義務化とは?をご覧ください。
3つを矛盾なく整備する手順|一元化できる部分・してはいけない部分
一元化できる部分
- 防災体制・役割分担…3計画で共通。1つの体制表を各計画から参照する形にする
- 緊急連絡網・関係機関の連絡先…同じ様式を共有(更新も1か所で済む)
- ハザード情報・被害想定…同じデータを使う
- 避難場所・避難経路…非常災害対策計画と避難確保計画で共通化できる
一元化してはいけない部分
- 避難確保計画の法定記載事項…水防法施行規則が定める項目が漏れると要件未達になります
- 訓練の記録…消防法・水防法・BCPで根拠が違うため、記録は分けて残す
- BCPの優先業務・業務縮小の判断…避難計画には出てこないBCP固有の内容
整備の手順(おすすめの順番)
- 自施設が避難確保計画の対象か確認(市町村に問い合わせ)→対象なら最優先で作成・提出
- 非常災害対策計画を災害別(火災+風水害+地震)に整える
- BCP(自然災害・感染症)を策定し、優先業務と人員の話を書き足す
- 共通部分(体制表・連絡網・被害想定)を1つに統一し、各計画から参照する
- 年間の訓練カレンダーを作り、どの訓練がどの計画の要件を満たすかを明記する
計画は揃った。では夜間に動けますか?
夜間の職員数と入居者数を入れるだけで、避難体制のリスクを1分で判定します(無料・入力データは送信されません)。
所要約1分/入力内容が送信されることはありません
「計画はある、訓練はしていない」というギャップ
全国的な傾向として、避難確保計画の作成率は高い一方で、訓練の実施率は大幅に低い状況が続いています。計画をつくる段階は自治体の働きかけで進みましたが、訓練は施設任せになっているためです。
逆に言えば、訓練を実施して市町村へ報告している施設は、それだけで上位の備えになっています。訓練の設計は介護施設の防災訓練|内容・シナリオ例、回数の整理は避難訓練は年何回?をご覧ください。
よくある質問
非常災害対策計画とBCPは1つにまとめてよいですか?
1冊にまとめる運用は可能です。ただし目的が異なるため、避難に関する部分(非常災害対策計画)と業務継続に関する部分(BCP)の両方が揃っていることが必要です。共通の体制表・連絡網を1つにして双方から参照する形が効率的です。
避難確保計画はどこに提出するのですか?
市町村長へ報告します(防災担当課が窓口となるのが一般的)。作成・変更時の報告に加え、訓練の実施結果も報告する義務があります。様式は市町村が用意している場合が多いので、担当課に確認してください。
自施設が避難確保計画の対象かどうか分かりません
①ハザードマップで浸水想定区域・土砂災害警戒区域に入っているか確認 ②市町村地域防災計画に施設名が記載されているかを防災担当課に問い合わせ——の2段階で確認できます。区域内でも地域防災計画に記載がなければ法律上の作成義務は生じませんが、備えとしては作成が望ましいです。
訓練は1回でまとめて3計画分にできますか?
1回の訓練で複数の要素を実施することは可能ですが、記録上はどの計画の訓練として何を実施したかを分けて書いてください。特に消防法の消火・避難訓練(年2回以上)、避難確保計画の訓練(市町村へ報告)、BCP訓練は根拠が異なるため、記録の書き分けが重要です。
まとめ
✓ この記事のまとめ
- 3計画は根拠法・目的・提出先が違う。どれか1つでは代替できない
- 避難確保計画だけが市町村長への提出・訓練結果の報告が義務
- BCPだけが報酬減算の対象(施設・居住系3%/その他1%)
- 体制表・連絡網・被害想定は一元化してよいが、訓練記録は分ける
- 整備の順番は「避難確保計画の対象確認→非常災害対策計画→BCP→共通部分の統一」(2026年7月時点の情報)
3つの計画、矛盾なく整理できていますか
元消防局員×救急救命士×看護師が、計画間の整合性チェック、避難確保計画の作成・報告、訓練の設計まで支援します。書類の点検だけでもご相談ください。
お電話 070-9445-5546(平日9:00〜17:00)/支援は大阪・近畿中心、ご相談はオンラインで全国対応
この記事の監修
奥野雅也(サニーアライズ代表)。元消防局員として災害・救急の現場を経験。救急救命士・看護師。介護・福祉施設の防災訓練・BCP策定支援と、避難力を数値化する「MTED診断」を提供。代表プロフィールを見る
参考資料(一次資料)
- 水防法第15条の3(避難確保計画の作成・報告・訓練・訓練結果の報告)、同施行規則第16条(記載事項)
- 各サービスの運営基準(非常災害対策・業務継続計画)および解釈通知
- 国土交通省「要配慮者利用施設における避難確保計画の作成・活用の手引き」
- 消防法施行規則(消防計画・訓練)
